二人きりの誕生日 ( 1 / 3 )

 



「な、なんで前期試験の期間中なの……」

望美は恨めしそうにカレンダーを睨みつける。

そこに大きな花丸とともに記された「譲くんのお誕生日」。

そしてこの日を貫いて、前後に→で示された前期試験期間。

ひどい……。

まさか高校時代よりも障害が増えるなんて……!




譲より1年早く大学に進学した望美は、大きな問題に直面することになった。

中学や高校の期末試験は7月上旬。

ところが、大学ではこれがおおよそ10日ほど後ろにずれる。

つまり、譲の誕生日である7月17日は試験期間の真っ最中ということになるのだ。

「ううっ……!」

望美は頭を抱えつつも、履修している授業の試験日を一つずつ確認した。

レポート提出で済む授業もあるが、提出締め切り日が試験期間中なのでかえって時間を取られてしまう。

1年生ということで履修している授業も多く、どう頑張っても……



* * *



「ごめんなさい! やっぱりどうしてもお誕生日当日には時間が取れないの」

望美にほとんど泣き出しそうな顔で言われて、譲は大いに困惑した。

「先輩、そんなの気にしないでください。試験期間中ならしょうがないじゃないですか」

「だって、大学にいる4年間、毎年こんな目に遭うなんて……!」

「いや、俺も大学に入れば同じ状態のはずですから」

「ひどいよ! 日本の学期制度には問題があるよ!!」

「先輩、話が大きくなってます」

有川家のリビングで望美のカップにお茶を注ぎながら、譲は苦笑いする。




異世界から帰還して迎えた最初の誕生日は去年。

望美が受験生というハンデはあったものの、二人きりでデートを楽しみ、忘れられない楽しい時間を過ごすことができた。

今年もそれを期待しないではなかったが、自分が受験生であることに加え、望美が試験期間のまっ只中。

この日付に生まれた俺が悪いんだから……と、譲は早々に諦めていた。




「先輩の試験が終わってから、ゆっくりどこかに出かけましょう。別に、当日にこだわる必要はないんですから」

「そんなことないよ! お誕生日はとっても大切な日だもの」

膨れっ面のまま、望美はプイと横を向く。

祝われる側の譲よりも、祝う側の望美のほうがよっぽど傷ついているようだ。




「じゃあ……1時間限定でお祝いしてもらえますか?」

「え?」

譲の意外な言葉に、望美は思わず顔を向けた。

「お互い時間がないことだし、1時間だけどこかで時間を作って会いましょう。せっかく隣に住んでいるんですから、そのくらいは何とかなるんじゃないですか?」

「……うん」

譲の提案に、今まで膨れていたことも忘れて望美は頭を働かせ始める。

家で会うなら放課後か、夜か、朝か。

朝はさすがに慌ただしいから、やっぱり夜がいいのかな。

日付が変わる直前に会って、お祝いを言って、プレゼントを渡して……。

そこまで考えて、勝手に赤くなる。

夜だから、ちょっと長めにキスしてもいいよね。

お祝いだし。




「17日の試験の予定はどうなっているんですか?」

譲の声に、望美ははっと我に返った。

あわてて携帯で予定をチェックする。

「え、ええっと、ノート持ち込み可の試験がお昼から2つあるだけだよ。18日は暗記科目があるからしっかり復習しなきゃならないけど」

「じゃあ、先輩が出てこられるようなら、17日に日付が変わるころにしましょうか。庭じゃ蚊に刺されるから、温室か蔵にお茶の準備をしておきます」

「本当に?! じゃあ、譲くんが18歳になる瞬間にお祝いが言えるんだね!」

「それは……ちょっとわかりませんけど」

「?」

「楽しみにしていますね。ノート作り、がんばってください」

「うん!!」




「1日中べったり一緒にいる」誕生日は、大学にいる間はお預けかもしれないけれど、1時間とはいえちゃんと誕生日が祝える!

そのことがうれしくて、望美は早速当日の服装とプレゼントのラッピングのプランを練り始めた。

急に機嫌がよくなった彼女を眺めながら、譲は苦笑する。

(多分、俺と先輩では、考えていることがまったく違うんだろうな……)

が、言わぬが花と言葉を呑み込むことにした。