2人だけの聖夜

 


望美は簀子縁で京邸の庭を見ていた。

近づいてきた足音を聞いて、勢いよく振り向く。

「あ、譲くん! ねえ、気づいてた? 明日……」

「はい?」

いきなりの問いに戸惑う譲の顔を見て、あわてて口をふさぐ。

「な、何でもない! 気にしないで!」

「先輩……?」



突然、雪景色の異世界「京」に放り出されて数日。

景時の邸にそれぞれ部屋を与えられたものの、まだ事態がつかみきれない日々が続いていた。

望美がパタパタと簀子縁を走り去る姿を見ながら、譲ははっと息をのむ。

(あ、もしかして今日って……)



「……すみません、朔さん」

厨の戸を控えめに開けた譲は、忙しく立ち働く朔に声を掛けた。

「譲殿、私のことは『朔』でいいと言ったでしょう?」

「あ、はい。ええと、……朔」

「何かしら?」

「図々しいお願いをして申し訳ないんですが……」



厨での仕事を終え、部屋に戻ってきた朔は、寒い廊下に望美が立っているのに気づいた。

「望美? どうしたの? こんなところで、寒いでしょう?」

「あ、朔! ごめんね、実はお願いがあって……」

「あら、あなたも?」

「え?」

「……何でもないわ。とにかく中に入って。すぐに火を熾すから」





その夜、忍び足で譲の部屋に向かう望美の姿があった。

大事そうに抱えた何かを戸口の前に置くと、そっと背を向ける。

首尾よく目的を果たして簀子縁の角を曲がると、ポスッと何かにぶつかった。



「え? 先輩?」

譲の胸に埋まってしまった望美も驚く。

「ゆ、譲くん!? 部屋にいたんじゃ?!」

「先輩こそ、部屋にいないから捜してたんです」

「「なんで……?」」



同時に尋ねた後、顔を見合わせてぷっと吹き出す。



「その、今日はクリスマスイブだから、先輩に何かプレゼントしたくて」

「あ、譲くんも気づいてたんだ! そうだよね、向こうでパーティの相談してたら、こっちに飛ばされちゃったんだから、クリスマス直前だったんだよね」

「そうですね……。それで、材料とか、調理器具とかに不慣れで本当にたいしたものじゃないんですけど、厨に来てもらえればと思って」

「あ! じゃあ先に行ってて! すぐに行くから!」





しばらく後、望美はニコニコしながら、譲が作ったおしるこを味わっていた。

「クリスマスにおしるこってどうかと思ったんですが」

「最高だよ! こっちに来てから甘いもの食べるの初めて! やっぱりおいしいね!!」

「朔に甘味のつけ方を教えてもらって、なんとかそれっぽくできたかな、と」

「クリスマスにスイーツ食べられるなんて幸せ~! 譲くん、ありがとう!!」

最高の笑顔で言われて、譲は照れ隠しに眼鏡のブリッジを指で押し上げた。



「じゃあ今度は私から! メリークリスマス、譲くん」

望美が差し出したのは、ちょっと不器用に縫われた小さな巾着。

「ありがとうございます。これ、先輩が縫ったんですか?」

「うん。朔に布と裁縫道具を借りたの。急いだから不恰好になっちゃったけど、プレゼントはね、袋じゃなくてな……か……み! 中を見ないで1つ出してくれる?」

「? はい……?」

紙が何枚か入っているのが感触でわかる。



引っ張り出した1枚には、文字が書かれていた。

「……! これ……?」

「あ、いきなりそれが出ちゃったか~!」

「先輩? あの……?」

書かれていたのは、
「一発芸」という言葉。

「苦しいときの『肩たたき券』も考えたんだけど、それより譲くんが常に王様の『王様ゲーム』のほうがいいかと思って。
明日やるつもりで、手紙を付けてさっき部屋の前に置いといたんだよ。でもまあ、明日やるのも今夜やるのも同じか!」

「……!!!!」



絶句する譲の横で、望美は元気よく手を挙げた。

「一番、春日望美、一発芸やりますっ!!」



色気ゼロの王様ゲームは、その後、深夜まで続いたのだった……。






 

 
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