月見れば 千々に物こそ
京都・鷹通の下宿(現代ED後)
「わあ、きれいなお月様ですね、鷹通さん」
「はい。こうして月を見ながら杯を傾けていると、友雅殿を思い出します」
「向こうではよく二人で飲んだんでしょう?」
「ええ。そういえばあの方は、あなたを『月の姫』と呼んでいましたね」
「……まあ、突然不思議なところから現れたのは認めますけど……」
「恋焦がれる公達をすべて置き去りにして、いつか月に帰ってしまう女性。
そういう意味だと思いますよ」
「そんなオーバーな……あ」
「こうしてお手を取ってもよろしいでしょうか。
あなたが月にさらわれてしまわないように」
「は、はい……でも何か」
「……?」
「今夜の鷹通さん、ちょっと友雅さんが混じっているような」
「それは……大変失礼いたしました……///orz」
鷹通さん、意外にダメージが大きかったとか…(^_^;)
* * *
伊予・翡翠の船(ゲーム前)
「ああ、無粋な国守殿の相手をしているうちに月が昇ってしまった」
「翡翠! 私の話は終わっていません!」
「少し頭を冷やしたらどうだね。せっかくの望月だ」
「お前こそ少しは真剣に」
「君も貴族の端くれだろう?
その割に、歌のひとつも詠んでいるのを見たことがないが」
「!」
「国守殿は女性以外にも不得手があると見える。
名月を愛でる風流もわからぬとは」
「……ガラス戸の 外のつきよをながむれど ランプのかげのうつりて見えず」
「……何だって?」
「ご所望の歌は詠みました! さあ、この書状を見てください!」
「……がらすど?」
「帰農に関する覚書です。さっさと目を通しなさい!」
正岡子規の歌です。幸鷹さん、無自覚。
* * *
鎌倉・有川家(ゲーム前)
「やっと帰ってきた~! 遅いよ、将臣くん!」
「望美、まだいたのか。明日学校だろうが」
「兄さんが遅くまでバイトいれるからだよ。
先輩、お月見は絶対三人でしたいって今まで」
「団子食わずに待ってたのか?」
「お団子は……まあ食べたけど///」
「多めに作ったから大丈夫です、先輩」
「あのね、来年は受験だし、
ゆっくりお月見できるのは今年が最後かもしれないから一緒に月を見たいの」
「駅から家まで歩く間にたっぷり眺めたぞ」
「三人で!」
「茶化すなよ、兄さん」
「たとえ別々の大学に行くことになっても、
月を見ればお互いを思い出せるって素敵じゃない?」
「そうかあ?」
「兄さんは団子いらないみたいです」
「素敵だ。ものすご~く素敵だ」
「よ~し、じゃあみんなで庭に出よう!」
「あ、先輩、上着はおってください」
「望美、こけて団子落とすのだけは勘弁な!!」
この思い出が将臣くんのキャラソンへとつながります。
* * *
熊野・天鳥船
「姫! こんな時間になぜ堅庭などにいる?!」
「ごめんなさい、忍人さん。私の部屋からだと月が見えなくて」
「月?」
「今夜、満月でしょう?」
「……君は…。俺がどれだけ言って聞かせてもわからないのか」
「わかってます! でも、今夜の月は特別なんです、私のいた世界では」
「特別?」
「中秋の名月といって、ススキやお団子をお供えして月を見る風習があるんです。
ほら、とってもきれいなお月様でしょう?」
「君のいた世界には、宴の理由が多すぎる」
「そう…かな。それだけ平和ってことなのかもしれませんね」
「……」
「あ、カリガネが作ってくれたお菓子持ってきたんです。
そんなに甘くないから、忍人さんもどうですか?」
「俺はいい。食べ終わったら部屋まで送る」
「す、すみません」
「……確かに美しい月だな」
「! はい…」
「君が治める平和な世となったら、こうした夜に祭りを行うのもいいだろう」
「はい」
「その光景を……見てみたいものだな」
「はい!」
見上げた月の光は冴え冴えと地上を照らし、たたずむ人々の影を黒く縫いとめる。
言葉にできないさまざまな願いと、想い。
初秋の風が涼やかに吹き抜けていった。
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