慟哭

 



私が一番嫌なのは、彼の苦しみも知らずに笑っていた鈍感な自分。




私が一番嫌いなのは、彼のことをわかったつもりでいたあのころの傲慢さ。




どんなにつらい思いをしていたか。

どんなに悲愴な決意を抱いていたか。

すべてを知ったのは彼が息絶える寸前だった。




魂の奥から絞り出すように号泣しても、閉じた目蓋は二度と開かなくて、

謝ってもすがっても、冷たい頬に温もりが戻ることはなかった。




自分が許せなくて、心臓をこの手で引き裂いてしまいたくて、暗い淵や高い崖に何度も佇んだ。




そのたびに響いてくるのは彼の言葉。




「よかった…。あなたが無事なら、それでいいんだ」

「先輩……泣かないで…。あなたを泣かせるなんて……。あなたを守ろうと思っていたのに…」




苦しい息の下で、それでも私のことばかり心配していた譲くん。




「俺はわかっていたんです。…とっくに、覚悟なんてできていました」

「夢の中よりは…ずっといい--あなたの手が、暖かいから……」




ねえ、どうしてそんな風に言えるの?

なんで私のために命を投げ出したりしたの?




ずっと一緒にいて、泣いたり笑ったりして、私たちの心はもう切り離せないくらい一つになっていたのに。

その半分がいきなり奪い去られてしまった。

私は半分死んだまま、ここに立っている。

どれだけの時を、これから生きていけばいいの……?




おかしいよね。

笑おうと思えば笑えるんだよ。

口元をちょっと動かせばいいんだもの。

みんなに「大丈夫だよ」って言うこともできる。

ちゃんと、声は出るから。

でも、人の話も、いろいろな風景も、遠い遠いところにあって、何も感じることができない。

白い靄に覆われた場所で、たった独り、呆然と立ちすくんでいる。




「先輩……」




優しい声が聞こえる。

ちょっと照れたような微笑み。

今、私の一番そばにいるのは、幻影の譲くんだ。

手を伸ばしても触れられない、話しかけても答えてくれない、哀しい幻。




それもいいかもしれないね。

離れたくないから。

ずっとそばにいたいから。

これは私への罰。

彼の心を、最後まで知ることができなかった、思い上がった、残酷な、傲慢な自分への罰。

どんなに求めても、求めても、伸ばした手は虚空をつかみ、愛しい人は霞むように消えていく。




真っ白な荒野に、幻と二人だけで生きる。

いつか終わりの日が来るまで。

いつかこの白さに融けてしまえるまで。

頬を伝う涙の温かさだけが、私がまだ生きていることを教えている。

運命が彼の命を奪っていったのなら、どうかこの温もりも消して。

身も心も凍り付かせて、氷の彫像のように砕けてしまいたいから……。






 

 
psbtn