『遙かなる時空の中で』シリーズ

Special

いろいろな機会に書いて、掲載する場所がない同題遙かのSSを収録しました。

 

翡翠さんお誕生日記念

一歩


桟橋を踏みしめ、因果なものだと苦笑する。

船乗りは海にあっては陸を想い、陸にあっては海を想う。

自分を陸に留めるものなど、今後も現れはしないだろう。

ただ、今回の呼び出しには興味を惹かれた。

交渉役があの国司殿とは。しばらく退屈せずに済みそうだと京に足を向ける。




友さんお誕生日記念【譲望】

束の間

6月生まれの先輩は、しばらくの間2つ年上になる。

自分が子供っぽく見えないかと心配していたら、教室から声が聞こえた。

「将臣くん、私、おばさんっぽく思われないかな?」

あなたがあなたでいてくれれば、そんなもの関係ありません。

と、あなたになら素直に言えるのに。




savaさんお誕生日記念【夕霧】

かわく

最初、夕霧は艶やかな花みたいだと思った。

けれど今は、枝を広げた広葉樹に見える。

激しい嵐にも暑さや寒さにも枯れることのないしなやかな樹。

「だったら、私にとっての『雨』は千尋ちゃんやね。なしでは枯れてしまうやろ?」

ウインクされて、なぜか頬が熱くなった。




川上とも子さん一周忌【神子】

笑顔

鷹通「頑なな心をほぐし、真理を見つめる勇気をくださいました」

幸鷹「末法の世の只中で、未来を信じさせてくれました」

譲「どんなに辛くても苦しくても笑顔を忘れない先輩に、俺はどれだけ力づけられただろう」

忍人「笑顔の価値を、意味を俺に教えてくれた」

心からの感謝を




友雅さんお誕生日記念

祈り

京を救う神子を信じるには、私は世の中を知りすぎていた。

君のことも、単に風変わりな少女だと思っていたのだよ。

だがその真っ直ぐな祈りは、怨霊や鬼を倒すためではなかった。

君が変えるのは人の心。

情熱を見出した私の目に映る世界が、完全に姿を変えたように…ね。




朱夏さんお誕生日記念【泰衡】

約束

「高館から戻ったか。律儀なことだ。あちらで寝てもよいものを」

庭先に座る金に、泰衡は苦虫を噛み潰したような顔で話しかける。

「お前が守るべきは、俺でなく九郎だ。わかっているな」

「ワフッ!」

「ならば早く寝ろ」

背を向けて去る主人を、金は尾を振りながら見つめていた。




煌さんお誕生日記念【風早・柊】



「俺は…運命を変えるわけにはいきませんから」

「君の立場はわからないでもありませんが…それにしては我が君に肩入れしすぎていませんか?」

たった一つの瞳は俺を責めるでもなく、静かに見つめる。

「…傍観者でいるのは難しいことですね」

浮かんだのは、自嘲の笑み?