『遙かなる時空の中で3』

譲×望美

 

2012年師走・天


仮面


「二人でいるときくらいは、神子の仮面を外してください。

俺、そもそも先輩を神子だなんて思ったことありませんよ。

昔も今も、先輩は俺の…大切な人です」

そう言うと、少しほっとしたように笑って、先輩は俺の肩に頭を預けた。

幼なじみの仮面のほうは、当分外せそうにない。






晴れ着のあなたははしゃいで髪飾りの鈴をどこかに落として。

ベソをかきながら帰る後ろ姿を見て、兄さんと俺は必死で通り道を探した。

夕方、やっと見つけた鈴を届けると、鈴よりも俺たちが探していたことに感激して、

しばらく泣き続けていたっけ。

俺はそんなあなたがずっと…。




お洒落

髪型、服、メイクに靴…。

悩みに悩んで、いつもの格好に落ち着いてしまうのが私の癖。

人目を引く長身の「彼氏」の横に立つのはやっぱりちょっと気が引ける。

なのに私を見ると、いつでもとてもうれしそうに微笑んでくれる彼。

だから鏡の前の闘いはきっとこれからも続く。





2012年師走・地




「弁慶」

「何ですか、将臣くん」

「九郎と金って似てないか?」

「ああ…」

「九郎は遊んでやってるつもりだろうが、俺には二匹でじゃれあってるようにしか見えない」

「異論はありませんが、君の身近にはもっと金に似た人物がいるんじゃありませんか」

「…本人にだけは言うなよ






「譲くん、ただいま! 遅くなっちゃった」

「敦盛と二人きりだったんですか?」

「うん」

「…敦盛も男ですから、少しは気をつけてくださいね」

「やだ、八葉は私が女だなんて思ってないよ」

「そんなことは」

「じゃあ次は譲くんと行くね」

「……先輩。俺も男…なんですよ?」






「私が神子だから、譲くんを巻きこんじゃったんだよね」

「それを言うなら、祖母が先輩を巻きこんだ…のほうが正確です」

「でも」

「それに八葉なんか関係なく、俺はあなたを守れる人間でいたい。

自分を責めたりしないでください」

「…うん。いつもそばにいてくれてありがとう」






「先輩がお腹が空いたとき以外にも俺を思い出してくれることかな」

クリスマスの願い事を聞かれて、そう答えると先輩が目を丸くした。

見る間に涙が溢れ出す。

「す、すみません!」

「譲くんが一番大事だって、何でわかってくれないの」

わかっているから言ってみたかったんです。






「譲くんを幸せにする方法を教えて」と真顔で尋ねられて、

「先輩が幸せになることです」と答えたら、

あなたはむくれてしまったけれど。

本当なんです、先輩。

あなたが幸せそうに笑っている、その傍らでずっと生きていけたら。

それが俺の心からの…ただ一つの望みなんです。