『遙かなる時空の中で』

鷹通×あかね

 

2012年文月・地




「薬湯が効かないとき、義母がこうやって手を当てて『おまじない』をしてくれたものです」

鷹通さんはそう言って、頭痛で寝込んでいる私の額に手を置いた。

不思議と痛みがやわらいでいく。

「おまじないは?」

「え?」

少しためらった後、頬にそっと唇が触れる。

効果てきめん。




支え

「神子殿、ご無沙汰いたしております」

「鷹通さん? 内裏のお仕事が忙しいんじゃ」

「鷹通が来ないと神子の気が翳る」

「と泰明殿がおっしゃって、連れてこられまして」

「ええ~っ」

「気は整った。鷹通、帰れ」

「「ええ~っ?!」」

「あれでサポートしてるつもりかよ、泰明」




もえる

「燃えるような…とはよく言ったものです」

眼前を彩る鮮やかな紅葉に、鷹通は思わず嘆息する。

「京の紅葉にはかなわないと思うけど」

あかねの言葉に鷹通は微笑んだ。

「燃えるような想いを抱きながら紅葉を見るのは初めてですから、今までで最も心に沁みる色です」

「!」






「え? 藤姫ちゃん、これ、私に?」

「はい、鷹通殿に教えていただいて誂えました。神子様の世界の枕はとても柔らかいのですね」

「おやおや、枕とは。鷹通といったいどんな艶めいた話をしたのかな、神子殿」

「誤解です、友雅さん! 多分……修学旅行の話…かな///」





2012年葉月・天




優しくて穏やかな鷹通さんは、紳士的すぎて時々「本当に私のこと好き?」と思ってしまう。

だから、ごくまれに感情を抑えかねたように抱きしめたり、キスしたりしてくれると、

ちょっと幸せな気持ちになる。

…なんて言ったら驚かれそうだなあ~。

どんな鷹通さんも大好きだよ。




つねる

案朱で実の母の話をした時、神子殿は言った。

「つねられたら誰でも痛いように、実のお母さんと離れたら誰だって寂しいし、辛いです。

『よくあること』なんて言わないでください」

あの時、この方を必ずお返ししようと誓った。

たとえまた同じ痛みを味わうことになっても。






「一人より二人がいいのは、苦しさもうれしさも分かち合えるからですよ。

二人分背負ったりしないでください」

戦闘中、過保護になりがちな私をたしなめる神子殿の言葉。

思わず俯くと「…なぜ『二人』なのかね」と、友雅殿が尋ねた。

神子殿の頬が見る見る染まっていく。

…?





2012年葉月・地




「神子殿は私にとっての光でした。それが今は、芳しく甘い花のように思えます」

「光は鷹通さんのほうです! でも今はしなやかな若木みたいな感じ。なぜかな?」

「それはお互いイチャイチャ触るようになったからだって言ってきていいか?」

「やめた方がいいよ、天真先輩」





【現代で】

「これは美味ですね」

「チョコレートって言うんです。ずっと食べたかった~!」

「神子殿のお気持ち、わかります」

「鷹通さん、ケーキもどうぞ」

「すみません、詩紋殿。あの、ただ…」

「ほれ、ぼたもち! とりあえず慣れた味食っとけ」

「ありがとうございます、天真殿」




なぜ


「だってこの邸の人とはいつでも話せるし、鷹通さんの話はすごくためになるんだもん」

物忌みに鷹通さんを呼んだ理由を、天真くんにそう説明した。

決して嘘じゃない。

淡萌黄の文を書くたび、侍従の香を焚くたびに高鳴る鼓動は、

まだ言葉にできないもう一つの理由だけど。




いつか


「いつかなどという日は永遠に来ないよ、鷹通」

「友雅殿」

「今、死に物狂いで手に入れないのなら、君にとって所詮そこまでの価値ということだ」

「…あなたにも手に入らなかったものがあるのですか」

「どうだろうね」

「…神子殿をお訪ねしてまいります」

「頑張りなさい」




手作り

あかねが作ったアルバムには、博物館や映画のチケット、押し花、思い出を綴ったカードまで貼られていた。

「鷹通さんがこっちに来てから一年たった記念です」

便利な世界だからこそ、かけられた手間に心を打たれる。

「…ありがとうございます」

鷹通は万感を込めて言った。