『遙かなる時空の中で』

鷹通×あかね

 

2012年水無月・天


束の間


案内を断って訪ねた鷹通さんのお部屋。

文机の前で珍しくうたたねする姿を見つけた。

八葉と治部省のお仕事、両方やってるから疲れるよね。

きれいな寝顔に思わず見とれて、次の瞬間、開いた瞳に大慌てした。

「神子殿?」

「き、今日は少しゆっくりしましょう、鷹通さん」






気づくとあなたの姿を目で追っている。

真剣な眼差し、やさしい笑顔、友雅さんにやり込められたときの照れた表情。

「神子様? 皆様がお待ちですよ」

藤姫の声にわれに返る。

御簾越しなら、こうして好きなだけ見つめていられるのに。

この道具の便利さ、ようやくわかったよ。






怨霊を封印した後、鷹通さんの眼鏡の鎖から汗の雫が滴った。

激しい戦いだったため、息も乱れている。

「鷹通さん」

「え…」

手を伸ばしてハンカチで汗を拭うと、鷹通さんの顔がすごい勢いで赤くなった。

「み、神子殿……」

さっきより落ちる雫が増えたのはなぜ?





2012年水無月・地


賭け


「私は賭け事は嫌いです」

そう言っていた君が、大きな賭けに出ようとしている。

「あちらでうまくやる自信はありません。

けれど、神子殿がいない未来を思い描けないのです」

鷹通、ならばそれはもう賭けではない。

すべてを受け止める覚悟を決めた君の多幸を心から祈るよ。




誘惑

「そんな小娘といるより、あたしと来たほうがずっと楽しめるよ」

「シリン、鬼の首領を慕っているのなら、たとえ方便でもそのような言動は慎むべきです」

「な、何言ってるんだい!/// 覚えておいで、天の白虎!」

「お待ちなさい! どうしたのだろう?」

「鷹通さん…」




ゆるむ

暖房の完備された現代でも、春の訪れはやはりうれしい。

鷹通がそう言うと、「花の季節が来ますからね」とあかねが答えた。

「ええ。けれど何より、手袋越しでないあなたの手を感じられるのが…」

「え」

「あ」

「鷹通さん」

「す、すみません」

彼の正直さは時々心臓に悪い。






「誰かの力を借りることは、弱いということではありませんよ」

鷹通さんが言った。

「責任や判断まで委ねるのでない限り」

「自分が頼り切ってしまいそうで怖いんです」

「あなたはそんな方ではありません」

でも私、今、あなたの微笑みにこんなに救われてるんですよ、鷹通さん。





2012年文月・天


瞬き


「千年…ですか」

私の世界と京にはそのくらい時の隔たりがあると言うと、鷹通さんは嘆息した。

「神子殿からすれば、私などいにしえの瞬きに過ぎませんね」

「とてもまぶしい、道標のような瞬きですよ」

私の言葉に少し驚いた後、「そうありたいです」と微笑んだ。






校門で。

「鷹通さん?!」

「お帰りなさい。あなたに傘を持ってきたのですが…」

「…やんでますね。ごめんなさい!」

「とんでもない。一緒に雨上がりの町を歩く口実ができました。
傘のない京では外出もままならなかったですからね」

「…相合傘もいいんだけどな…」

「はい?」




憧れ

ずっと憧れていた。優しい微笑みの教養高いあの人に。

だから神子殿にも、そういう女性になってほしいと……。

けれど今、私を魅了するのは彼女自身の輝き。

ほかの誰にもない、豊かな喜怒哀楽。

どこの誰にもなる必要などありません。

神子殿、私は「あなたが」好きです。




迷い

もし、元の世界に戻れなかったら…?

鬼から京を解放しても帰れなかったら?

「大丈夫です。必ずお返しします」

私の表情に気づいて、鷹通さんが声をかける。

やさしく深い響き。

一瞬収まった胸の鼓動は、今度はこの人との別れを想像して激しく乱れる。

私はいったい…?