検非違使別当の発見 ( 1 / 2 )

 



「?」

幸鷹は、足下に転がる円盤を不思議そうに眺めた。

形状は似ているが、まさか……。

かがみ込んで拾い上げると、紛れもなくそれは

「あ、ごめん、ごめん、うっかり落としちゃってさ〜」

にぎやかな足音が近づいてきた。




「……梶原……景時殿?」

「ああ、幸鷹殿。拾っていただいて助かります!」

人懐っこい笑顔で言われて、幸鷹も思わず微笑む。

「景時殿、もし差し支えなければ、これが何か教えていただけますか」

円盤を景時の手のひらに載せながら、幸鷹は言った。

「あれ? 幸鷹殿は譲くんと同じ世界から来たんですよね? 
じゃあご存じなんじゃないかな」

「譲殿……。では、やはりこれはコンパスですか」

景時の手の中で、金属の針がクルクルと回った。



* * *



「プラネタリウム?」

「そうそう。塗込の中で灯りを点して、望美ちゃんのいた世界の星座を映したりしたんですよ。
彼女、喜んでくれたっけなあ〜」

景時が目を細めてうれしそうに言う。

南斗宮の庭園の四阿(あずまや)。

独力で、または譲の話を参考に、これまで作ってきたものを次々に挙げて、景時は説明を続けていた。

「なるほど。そのような生活の楽しみとなるものを創意工夫されるのは、素晴らしいですね」

「はは……オレなんて軍奉行よりそっちのほうがよっぽど似合ってるんですけどね。
幸鷹殿は何か作ったりされないんですか?」

「私は……」




「幸鷹さ〜ん」

花梨の声が後方から聞こえた。

幸鷹が椅子から立ち上がると、それを見つけて一直線に走ってくる。

「ははっ、花梨ちゃんはまるで子犬みたいでかわいいなあ」

景時が微笑みながら言うと、幸鷹は

「景時殿の神子殿はどのような方なのですか?」

と、尋ねた。

その間に花梨が息を弾ませて到着する。

「こんにちは、景時さん!」

「こんにちは、花梨ちゃん。そうだなあ、元気なところは似てるかなあ」

「え?」という顔で、花梨が幸鷹を見上げた。




「神子殿、どのようなご用ですか?」

「あ、譲くんがお菓子を焼いたからみんなを呼んできてって言ったので」

「あ〜、譲くんのお菓子はおいしいからね〜。じゃあ、みんなで宮に戻ろうか」

景時も椅子から腰を上げる。

「あの、私、お話の邪魔をしちゃったんじゃ」

「いや、俺たちの神子の話をしていただけだから」

「……望美さん?」

幸鷹がそっと花梨を促して歩き始める。

「神子殿と同じように元気な方だそうですよ」

「!! 私、走ってきて失敗したかな……」

「いや〜、龍神の神子は足腰も丈夫じゃなきゃね。
花梨ちゃんも怨霊の封印とかやってるんでしょ?」

「はい! でも、あかねさんや望美さんに比べると、私、ひ弱みたいで」




声のトーンが少し暗くなったのに幸鷹は気づいた。

「……神子殿?」

「いったいどうして?」

景時も声をかける。

「私、穢れに当たると動けなくなっちゃうんです。
あかねさんはそんなことないみたいだし、望美さんも。
だから、神子としての力が弱くて、八葉のみんなに迷惑かけてるんじゃないかなって思って……」

精一杯明るく言おうとしているのが、かえって痛々しかった。

「……!」

言葉のかけようがなくて、幸鷹はしばし絶句する。

花梨は京で、黒龍の神子である千歳との力の差にさんざん悩んできた。

それが今度は白龍の神子同士の力の差に悩むことになるとは……。




「う〜ん、俺は思うんだけどさ」

両腕を頭の後ろに組んで、のんびりとした口調で景時が言う。

「たぶん、その時代時代で、神子や八葉に求められる能力って、違うんじゃないかな」

「え?」

花梨がぽかんとした顔で見上げた。

景時はニッコリ微笑むと、「ちょっと失礼」と花梨の手を取る。

「景時殿?」

意外な行動を、幸鷹も訝しんだ。

「……うん……。小ちゃくて、柔らかくて、かわいい手だよね」

「ええっ??」

いきなり言われて、花梨は真っ赤になる。




「……望美ちゃんの手はね、今はマメだらけなんだ。
毎日剣の鍛錬をしているからね。
俺たちの時代では、白龍の神子は戦場で戦わなきゃいけない」

「……龍神の神子が……ですか?」

幸鷹が問い返した。

「そう。平家は源氏との戦場に怨霊を送り込んでいるからね。
望美ちゃんは、見たくないものをたくさん見たり、時には人とも斬り結ばなきゃならない」

「!!」

花梨が口に手を当てて絶句した。

幸鷹がその背中を支える。

「……そんな……」

「まあ、俺は陰陽師だけど、泰明殿や泰継殿とは比べ物にならないくらいへっぽこだし、望美ちゃんも『気を読む』能力が高いわけじゃない。
俺たちの時代ではそういう力が、あまり必要じゃないんだよ」

景時はそう言うと、微笑んだ。