Sweet Lies

 



京都・哲学の道


「それで、天真くんが『鷹通ならエイプリルフールの王者になれる! 一番嘘つきそうにないから、だまし放題だ』って言ってたんです」

「天真殿がそのようなことを? それは買いかぶりというものです」

「嘘をつかなそうに見えるのは本当だと思いますよ」

「だといいのですが」

「………………」

「……あかねさん?」

「あ、あそこ! ねえ鷹通さん、あのベンチで日向ぼっこしませんか?」

「え? けれど映画の時間が……」

「予定変更です! 今日は木漏れ日の下でお昼寝に変更?」

「しかし」

「鷹通さん、昨日ほとんど寝てないでしょ? 忙しいのに、誘っちゃってごめんなさい」

「いいえ! 私は」

「ここ。目の下に、隈ができてます」

「あ……」

「……鷹通さんは、十分嘘つきさんですよ。やさしい嘘ばっかり、私につきます」

「あかねさん……」

「ね、ゆっくりお昼寝しましょ。今日、私が一番したいのはそれです」

「……ありがとうございます。では、私もあなたのやさしい嘘にだまされることにしましょう」

「エイプリルフール、ですからね」



* * *



東京・幸鷹の大学近く


「申し訳ありませんでした。春休み中なので、もう少し人気(ひとけ)がないと思っていたのですが」

「ううん、私こそ、研究室に行ってみたいなんてわがまま言っちゃってすみません」

「しかし、あれほど皆があなたを質問攻めにするとは……。不快な思いはされませんでしたか?」

「全然! でも『初めて会ったのはいつか』とか、『親同士が知り合いだったのか』とかの質問に本当のこと答えちゃったけど、よかったのかな?」

「今日はエイプリルフールですから、多少つじつまが合わなくてもそのせいにできますよ」

「あ、そうか! 便利ですね」

「ですから……今日の話のどこまでを嘘にするか、決めていただけますか?」

「え?」

「……その……皆が連呼していたと思いますが」

「あ、こ、『婚約者さん』ですか?」

「はい」

「……そ、それは、嘘にする必要なんかない……です……!」

「……本当に?」

「は、はい! 幸鷹さんが嫌じゃなければ」

「よかった……。もしもの時はエイプリルフールの力を借りるつもりでしたが」

「え? 幸鷹さん、もしかしてそれでわざわざ今日を選んだんですか?」

「あなたに嫌な思いはさせたくありませんから」

「……『私、龍神の神子らしいんです。あなたは八葉ですか?』」

「……!」

「私、本当のことはいつでもちゃんと言えますよ」

「……ああ、確かにそうでした。まっすぐで無鉄砲な私の神子殿」

「え?と……ほめてますか? それ」

「もちろんです」



* * *



京・景時邸の厨


「朔、今日は俺が先輩に何を言っても気にしないでくださいね」

「え? どういう意味なの? 譲殿」




「おはよ?……」

「おはようございます、先輩。今日も寝起きバッチリのさわやかな顔ですね」

「! そ、そういう譲くんはいつもどおり眠そうだよね」

「そうなんです。朝ご飯の支度も間に合わなくて」

「全然楽しみにしてないからいいよ!」

「じゃあ、先輩の嫌いなものばかりですが、あり合わせのものをどうぞ」

「あ?あ、どれもまずそう!」

「ええ、心がこもってませんから!」

「こ、このお椀なんか、すっかり冷めてて、ものすごく、ものすご?く」

「もちろん、先輩の起きるタイミングに合わせて温めたりしてませんから」

「ものすご?く……
熱々でおいしい?!!

「ええっ? もうギブアップですか、先輩」

「だって、おいしいものをまずいなんて言えないよ! 罰が当たるよ!」

「今日はエイプリルフールだから1日中嘘つきたいって言ったのは先輩ですよ」

「じゃあ、後でご飯がからんでいないところでもう一度やろ!」




「お待ちなさい、望美、譲殿」

「あれ、朔? どうしたの?」

「何の遊びか知らないけれど、世の中にはやっていいことと悪いことがあるのよ」

「さ、朔?」

「とりあえず朝餉の支度の続きは私がやるから、二人はそこに正座して反省しなさい!
い・い・わ・ね

「「ど、どうもすみませんでしたっ!!」」



* * *



橿原・千尋の私室


「えいぷりる……? ! くだらん! あの嘘をつく習わしか!」

「忍人さん、今年は柊を参加させませんから」

「どんな日だろうと、俺は君に嘘を言うつもりはない。そのような祭りは不要だ」

「! ……じゃあ……前から一度聞きたかったんですけど」

「何だ」

「私と初めて会ったときのこと、覚えてますか?」

「君が武器を携帯していなかったときか。あれは不用心すぎる」

「あの?……武器以外は見てなかったんでしょうか?」

「敵か味方か、攻撃力はあるか、伏兵はいないかは確認した」

「覚えているの、それだけ?」

「ほかに何が必要なんだ」

「……もういいです」

「君は色が白いから、顔だけじゃなく全身真っ赤になるな」

「そりゃ、誰だってあんなところ見られ……
え?

「俺はもう行く」

「ちょ、ちょっと待ってください、忍人さん!」

「俺は嘘は言わん」

「じゃあ本当のこと言ってください!! 
どこまで見たんですか! 
どれだけ覚えているんですか?っ!!








真面目な彼の嘘はちょっとツイスト気味。
その奥にある深い愛を確認できる日になりますように!



 

 
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